ブラック・ジャック 66の秘密 沖 光正
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『ブラック・ジャック』という漫画、いまの子供たちは知っているかな。
もし読ませたら何て言うだろう?絵が古臭いというかな、話が難しいというかな。
かくいう僕も、この漫画をリアルタイムで読んではいなかった。
少年チャンピオンに連載していたのは薄く記憶があるけれど、その雑誌を買うことはおろか、続きモノの漫画を定期的に読む、という習慣と風習が我が家にはあまりなかった。
それでもやっぱりブラック・ジャックという作品は知っていたわけで、ほんとに気を確かに持ってこの漫画と対峙したのは成人してから。
その時、これは、スゴイと思ったのを記憶している。
もちろん単行本だったけれど、しかもうらぶれた町角の食堂に置かれていたものを、注文したスブタ定食がくる間に読み耽った体験。
これは、スゴイ。
なんというドラマなのだ、手塚治虫は天才なのか、涙でスブタが滲んで見えた。
漫画、というポジションは、その広範囲ゆえ、やもすると低俗な、あるいは子供にまかせておけばいい、みたいな風潮を払拭できないイメージがあるけれど、それでも昨今、いわゆるオトナ、も堂々と漫画本を公共の場で開いているし、どこかの国の総理大臣は漫画好きを公言しているし、そういう意味ではたかだか漫画、とは言えず、立派に市民権とその地位を確立しているんである。
思い出してみれば、夢中になった漫画っていうものが、誰にも必ずひとつはあるはずだ。
環境的には不利であった僕でも、やっぱりそれはある。けっこう、ある。
本書は『ブラック・ジャック66の秘密』と題して、タイトルどおり、この作品に秘められた秘密と、実はね・・・、というようなトリビアな話を詰め込んで、いまの子供たちに「どうぞ」と差し出しているわけだ。
だから本来、子供のための、導き本であるのである。
表紙をご覧いただいたらおわかりのように、なんだかアセっているB・Jと、怯えながらB・Jにしがみつくピノコが映っている。
ピノコの顔がまん丸で、かわいい。
ピノコという名前は、例の、ピノキオからもじって付けたのだそうだ、このセンス。
畸形嚢腫(きけいのうしゅ)、という、決してペンを握りながらでは書けない難しい漢字の難しい名前の病気から生まれたピノコ。アッチョンブリケ。
わりとシリアスに終始してしまう恐れのあるテーマの中において、このピノコという娘の役割が実は、ものすごい貴重なのではないかと個人的には思う。
落としどころ、というか、ちょっとした安らぎを、この小さな女の子は読者に与えてくれる。
手塚漫画の数あるキャラクターの中でも、最も好ましいキャラのうちのひとつに数えたい。
さてこのブラック・ジャック、話の内容は今さら言うまでもないことであって、あまりにも有名な無免許ドクターの奇譚である。
そういえばこの時期、つまりこの漫画が描かれた時期、手塚治虫は大変な窮地に立たされていたようだ。自身の会社が倒産し、新作はあまりパッとせず、人気というものに翳りみたいなものが見え隠れしていたような時期である。それでも天才は天才なので、ただ、時代とのズレ、がそのような悪循環を産み出したのではないかと、今なら思える。
だって、ブラック・ジャックを読んだらわかるけど、これはもうバリバリのヒューマンドラマで、むしろ現代の日本人にこそ必要な作品だと声をすごく大にして言いたいほどだ。
もともと手塚は家系がそうであったように、医師の道を歩むことが出来たほどの知識があり、したがって手塚さんがこれを描かずして誰が描くのだ、と言わんばかりである。
ちょっと感動した話なんだけれど、手塚治虫が学生の頃、医者の道を行くか、漫画家の道を行くか、迷って、母親に相談したそうだ。
たいがいの母親やモンスターペアレンツはそこで、「何を言ってるのあなた!!医者に決まってるでしょうが!!」と、唾を吐きながら怒鳴り散らすところだろうが、手塚治虫の母親は違ったんだね。
「あんたの好きなほうを、取りなさい」そう言ったんだって。
それで手塚治虫は漫画家になった。そして日本の漫画を変えた。──いや、漫画を発明した、といってもいいんじゃないか。
彼がいなかったら、おそらくジブリも何もなかったんじゃないだろうか。少なくとも、この国の漫画のカタチは今のようにはなっていないと思う。
この功績は真に大きすぎて手がつけられないくらいだ。
そんなブラック・ジャック、手引書として書かれた本書は著者の熱意がこもっており、ほんとうにのめり込んでいるからこその視点が時にユーモアを交え、感心させられる箇所がいくつもある。
やっぱり現代の子供たち、そして大人たちにも『ブラック・ジャック』を読んで欲しいと思う。
まじめに思う。
命とは何か、生きるとは何か、普遍であり人類永遠のこのテーマに、手塚治虫は真っ向から取り組んでいる。
命が弄ばれる今の時代だからこそ、このような漫画が必要なのだと思う。
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